TEST PRESSING
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◆ テストプレス盤

「テストプレス盤」ですが、こちらも「プロモ盤」と同じく文字から想像できるようにレコードを製作する段階のテストバージョンとなります。
これは販売店などに配布されるプロモ盤よりも、もっと前の段階のレコードになります。

では、どんな段階のものかといいますと、演奏を録音したマスターテープからレコードを作成する際に、カッティングしたレコードの音質等がミュージシャンの意向に沿ったものかどうかを確認してもらうためのレコードになります。
例えば、各楽器のバランスやカッティングレベル、音質、高音と低音の鳴り方などをチェックしてもらい、ミュージシャン本人や担当者からGOサインが出れば初めて量産体制に入ることになるのです。
そして、プロモ盤は販売店に配布された後は破棄されることに(一応)なっていますが、このテストプレス盤は所有権がレコード会社にあるので、チェック後はレコード会社に返却しなければなりません。

このような性質のレコードですので、関係者向けにごくわずかな枚数がプレスされるのみとなります。
必然的にレア度もプロモ盤よりも高くなりますね。


また、リリース盤や一部のプロモ盤にはついているジャケットも当然ありません。普通は白いプレーンジャケットでレコードの内容を解説したシートが1枚付いているだけです。レーベルにも何も記されていないか、マジックでタイトルや簡単なメモ書きがしてあるだけです。

もし、この音質チェック段階でミュージシャンからOKが出なかった場合は再度カッティングし直すことになるのですが、そうすれば当然再カッティング後は当初のものと音の違いが出てきます。
この”バージョン違いが出てくる可能性がある”こともテストプレス盤の魅力のひとつだといえます。


そして、さらに困ったことに(?)、このテストプレス盤はリリース盤に比べて音質が良いことが多々あるのです。なぜでしょうか?
それはレコードのプレス工程を理解すると分かるのですが、ごくごく簡単に言うと、レコードをプレスする際に大量にプレスするための原盤になるものをひとつ作るのですが、これは使用すればするほど音の鮮度が落ちてしまうので、最初期に作成された原盤ほど良質な音が望めるという理屈です。
そういう意味ではテストプレス盤はその性質上、最初期にプレスされたものなので、理論的には音質が最も良いということになります。


本当に実際にそれほど音質が良いのか?ということですが、これはレコードによるので一概にはいえません。
一般的には70年代までのレコードであればテストプレス盤、ものによってはプロモ盤でさえもリリース盤とは音質や音圧が全く違う作品があるようです。マニアの耳を通さずとも明らかに音の鳴りが違うものが本当に存在します。

ただ、両者を聴き比べてみて「これは本当に違う音質かな?」と頭で考えなければ分からないようなレベルの違いであれば、私の考えでは音質が違うとは考えていません。音楽は頭で考えて聴くものではないと思うからです。
しかし、直感的に「おっ、これは違うぞ!」と思わせてくれれば、それは確かに音質の違いがあるのだと思います。


かなりマニアックなことを書きましたが、レコードマニアやオーディオマニアの世界ではこのような「少しでも原音(マスターテープ)に近い音質で聴きたい」という永遠のテーマがあり、それを突きつめていくとテストプレス盤やオリジナル盤(いわゆる初版レコード)いうところに行き着いてしまうのです。
 



アルバム盤テストプレス

広いジャケットを活かして(?)、発売日や曲目といったアルバムの情報がたくさん書かれたシートが付属していることが一般的
プロモ盤と同じく、同じタイトルのアルバムでもプレスする国が違えばテストプレスも若干仕様が違ってくる

「COOL FOR CATS」 イギリス盤テストプレス 1979 AMLH68503

⇒ 付属しているシートを拡大


「COOL FOR CATS」 アメリカ盤テストプレス 1979 SP-4759 (SP-5255)

⇒ 付属しているシートを拡大



◆ 「COOL FOR CATS」プロモとテストプレスとの比較 (アメリカ盤アルバム)

同じ「COOL FOR CATS」のアルバムでもテストプレスとプロモではほんの少しの違いがあります。
かなりマニアックですが、ここではアメリカ盤の「COOL FOR CATS」を例にこの違いを解説していきたいと思います。

まず、テストプレス盤A面の最終溝(レコード音溝の最も内側の部分)には「AM SP 5255 RC1」というカタログ番号の他に、「1」、「A1 A」といった表記も確認できます。
この「AM SP 5255 RC1」の最後の「1」の部分を「マトリクス番号(ナンバー)」といい、これはレコードの製造番号のようなものです。

レコードの製造過程において、マスターテープからプレスの原盤になるラッカー盤というものがカットされるのですが、マトリクス番号はその際に刻印されるものです。
もっと簡単にいえば、マトリクス番号は本でいう「初版第一刷」の「一刷」にあたる部分です。つまりマトリクス番号「2」は「1」の改訂版ということになるのです。
またレコード盤のA面B面のそれぞれに付与されていることも特徴です。


そのようなわけで、マトリクス番号の違うレコードは基本的には音が違うといえます。
ただ、その違いが聴いて分かるレベルかどうかは別の問題です。明らかに違う場合もあれば、そうでない場合もあります。
そして、番号が小さければ小さいほど初期のラッカー盤から起こされたレコードということがいえます。

マトリクス番号はレコードコレクターにとっては見逃せないもので、実際にビートルズのイギリスオリジナル盤ではマトリクス番号の違いで音圧や曲のミックスさえも違っているレコードが確認されています(私も所持して、確認しています)。

(*なお、マトリクス番号についてはCOOL FOR CATS Colour Vinyl のところでも解説しています)


次にプロモ盤の同じ部分をチェックしてみると、「AM SP 5255 RC1」と「1」の部分は変わらないものの、「A1 A」の部分は「A3 C」となっています。
そして、B面はテストプレス盤が「A2 A」で、プロモ盤が「AC D」となっています。

これはおそらくプレス用の金型になる「スタンパー」が少なくとも2回変更になったことを意味しているのだと思います。
スタンパーは消耗品なので、一定枚数のレコードをプレスすると音質の減退を考慮して交換してしまいます。または、作業中にスタンパーを破損したりしても換えざるを得ません。いずれにしても何らかの理由でスタンパーが変更されたことは間違いありません。


ちなみに肝心の「プロモ盤とテストプレス盤の音の違い」ですが、私の聴いた限りでは認識できるほどの違いはありませんでした。
初期段階のカッティングに何の問題もなく、テストプレスからプロモへの移行が順調に進んだということではないでしょうか?




◆ 「COOL FOR CATS」マトリクス番号の比較 (イギリス盤アルバム)

次は「COOL FOR CATS」のリリース盤(イギリス盤)でマトリクス番号の比較をしてみます。
私が所持している合計7枚のイギリス盤「COOL FOR CATS」をチェックしてみると、A面には「A1」と「A8」、B面には「B1」と「B7」と「B8」というマトリクス番号があるのが確認できました。

このマトリクスの違いがラッカー盤の違いを表していることは前述の通りです。つまりプレスの原盤が違うわけです。
しかし、私の所持している7枚という限定数の中での話で申し訳ないのですが、A面は「A1」と「A8」、B面は「B1」と「B7」が圧倒的に多いような気がします。

A面の「A2」〜「A7」という原盤は存在するのでしょうか?あくまでレコード会社の内輪のことですので確かなことは分かりませんが、「A2」〜「A7」のラッカー盤はカッティングスタッフが納得のいくカッティングができなかったのでお蔵入りし、全く出回らなかった可能性もあります。また存在するとしても比較的少数だと思います。

ちなみにテストプレス盤はA面がマトリクス「A1」、スタンパー「A」、B面がマトリクス「B1」、スタンパー「A」となっており、最初期にプレスされた盤の1枚であるといえます。さすがテストプレス盤です(?)

なお、私の調査の範囲ではこれらマトリクス番号による音質の違いは分かりませんでした。
一応、テストプレス盤は他のリリース盤に比べて若干音圧が高いかな?と思いましたが、これも気のせいかもしれません…。
厳密には若いラッカー盤の方が音の鮮度は良いと言えるのだと思いますが、少なくともビートルズのLPのマトリクス違いのような顕著な違いはありませんでした。



マトリクス番号の違い 末尾の「A1」と「A8」の違いに注目


プロモ盤、テストプレス盤、各種マトリクス違い等々、聴きまくりの図…




シングル盤テストプレス

アルバムはリリースされたすべてのタイトルにテストプレス盤が存在しているはずだが、シングル盤はすでにアルバムに収録してある音源をそのまま使用する場合には改めてテストプレスはしないのだろうか?

「WHEN THE HANGOVER STRIKES」 アメリカ盤テストプレス 7インチ 1982 AM2413-A
sideA : WHEN THE HANGOVER STRIKES

・片面のみのテストプレス。アメリカ盤の「WHEN THE HANGOVER STRIKES」は同年にリリースされた「I'VE RETURNED」のB面としてシングルカットされたが、カタログナンバーはそれと一致している



「THIRD RAIL」 イギリステストプレス盤 7インチ 1993 580-3347
sideA : THIRD RAIL

・こちらも片面のみのテストプレス
・リリース盤との違いはレーベルが印刷されていないこととB面がカッティングされていないだけで、マトリクスナンバーをはじめとして盤にカッティングされている情報は全く同じなので、何の問題もなくプレスされたものと思われる

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