POLAND POSTCARD SINGLES
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ポーランド製ポストカードレコード




世界中のレコード(ポストカード)コレクターを悩ませているポーランド製ポストカードレコード。
海外のサイトでは「Postcard Records」「Flexi-Disc Postcard」等の表現で紹介されています。
ライセンス品ではなく公式なカタログがないので、リリース年、製作元等が把握できず、さらにどのタイトルが何枚製作されているかなどもまったく不明で謎に包まれています。

このポーランド製ポストカードレコードはSQUEEZEでは2タイプのものが存在します。

ひとつは「TONPRESS」というポーランドの出版会社によってプレスされたハガキソノシートで、こちらは「COOL FOR CATS」の1タイトルのみが確認されています。
もうひとつは本物のハガキを加工したもので、多数のタイトルが作成されています。

以下、それぞれのタイプについて解説します。




◆ 「TONPRESS」製ハガキソノシート

こちらはポーランドにおけるSQUEEZEシングルの唯一の「公式」リリースといえます。
「公式」とはいいましても、あくまでポーランド政府に「認可」されただけで、本家A&Mとライセンス契約されたものではありません。

「TONPRESS」というポーランドの出版会社が作成したもので、この会社は1989年の民主化以前より存在する国内の大手出版社だと思われます。
この出版社は60年代から80年代にかけて多くのミュージシャンのハガキソノシートを作成してきました。この「COOL FOR CATS」もそのひとつです。
また、現在でも書籍や音楽ソフトをはじめとして、国内の多くの出版物にかかわっています。


ソノシート盤の表面は音溝が掘られたフイルムがラミネート加工されてあり、ターンテーブル用のセンターホールが空けられています。
そして、裏面にはこのソノシートを知るための様々な手がかりが記されていますが、当然すべてポーランド語によるものです。ここではひとつづつ読み解いていくことにします。

まず、左上に「pocztowka dzwiekowa」と書かれていますが、これは直訳すると「ハガキサウンド」と読めます。いわゆる実用的なハガキではないのですが、コンセプトとしてはそうなのでしょうか。

その右横の「krajowa agencja wydawnicza」の表記ですが、これは「国内出版機関」と訳せます。すぐ下の「TONPRESS」のことですね。

下の段にいくと「R-0963」とソノシート番号が書かれ、これは「COOL FOR CATS」固有のものになっています。
「COOL FOR CATS」「Tilbrook - Difford」とタイトルと作者がクレジットされ、その下には「wyk.Zespol SQUEEZE」とあります。これは、「演奏バンドSQUEEZE」という意味です。

真ん中にいくと、「BIEM」「M45」とあり、これはターンテーブルの45回転でプレイするということです。

右側にはより詳しいデータが記されています。

「cena」とは「価格」のことで、「zl12.-」は「12ズロチ」と読み、ポーランドの通貨のことです。
参考までに80年当時のポーランド国内でのタマゴの価格が30〜35ズロチでした。
しかし、ポーランドではタマゴの価格が現在でも30〜35ズロチと当時からほとんど変わっていないことを考えると、これらソノシートがどれだけ高価なものだったかが分かると思います。

「fot S.Dziadawics」は表の写真の撮影は「S.Dziadawics」という人によるものということです。

「druk i tloczenie」とは「印刷/エンボス加工」のことで、「RSW Zaklady Graficzne」という企業が請け負っていることが分かります。


スリーブは黄色の非常に薄手のもので破損しやすくなっています。
このスリーブにもタイトル等が記されており、封筒にはお決まりの「NIE ZGINAC」=曲げないでという注意書きもあります。


さて、肝心のソノシートの音質ですが、通常のビニール盤にはかないませんが、それほどノイズもなくまずまず実用に耐えうるといったところです。
しかし、このハガキソノシートをターンテーブルの上にのせてレコード針を落とすことを想像してみてください…。とても妙な気分になりますよ。

なお、この「TONPRESS」製ディスクのピクチャーには3種類存在することが確認されています。
「COOL FOR CATS」のシングルディスコグラフィーで紹介しているように、ひとつは公園らしき場所の「風景盤」、もうひとつはズバリ「ウサギ盤」、さらに私は所持していないのですが、クジャクの写真が載っている「クジャク盤」が存在しています。




◆ 本物のハガキタイプシングル

こちらのタイプは、より情報が少なく、確かなことは「ポーランド製で非ライセンス品」ということだけです。

仕様は上記の「TONPRESS」ソノシートと同じく、表面に音溝が掘られたフイルムをラミネート加工をしており、ターンテーブル用のセンターホールが空けられています。
ただ、ひとつ違うことは「ごく普通のハガキ」の表にラミネート加工されているということです。

裏面も普通のハガキですが、「TYT.(タイトル)」と「WYK.(ミュージシャン)」を書くための赤いスタンプが押されており、それぞれペンを使ってなんと手書きで書かれてあります。
そのため、製作枚数も非常に少ないものと考えられます。そもそも、普通のハガキをもとに完全ハンドメイドで作られているため、ハガキの絵柄も含め、まったく同一のものは2つと存在しないと思われます。各タイトル3枚ずつのみの製作?

なお、音質は非常に悪いですが、一応プレイはできます。実用性には欠けるので、単なるコレクターズアイテムかお遊び商品の一種かもしれません。上記のTONPRESS製「COOL FOR CATS」とは違ったタイプのアイテムです。


私はこれらのディスクをオランダのディーラーから入手したのですが、彼から「SQUEEZEのポストカードディスクがある」と連絡をもらったときは「何かの間違いだろう」と信じていませんでした。ネットでどこを調べてもそのようなレコード、アイテムが存在するなどということは書いてありません。

もし私がこれらのディスクを欲しいのなら、彼もポーランドのディーラーにオーダーするのでどうするか?ということだったのですが、存在するかしないかわけのわからないものにお金を出すわけにはいきません(結構な額でした…)
しかし、もし本当にSQUEEZEのアイテムだっら「これはアタリだ」と思い、リスクを取ってオーダーすることにしました。

はじめに入手できたと連絡があったのは「LOST FOR WORDS」だったのですが、正直なところ、これがSQUEEZEの曲だとすぐに分かりませんでした…。ベストアルバムに入っているような代表曲ならまだしも、なぜ「LOST FOR WORDS」???
一応、「RIDICULOUS」に「LOST FOR WORDS」という曲は入っているけど、これは他のSQUEEZEというグループの別の「LOST FOR WORDS」という曲じゃないか?と手元に来るまでは信じることができませんでした。

このディスクが私のもとに到着後、手にしてみると、そのディスクが放つ奇妙な空気に一瞬、たじろぎました。馬や花の写真に、普通のハガキの絵柄…。なんだこれは?私は騙されたのではないか??でも、確かに音の溝は掘ってある様子…。

しかし、おそるおそるレコードプレイヤーに置いて針を音溝に落としてみると…聴こえてきたのは、音質は劣悪ですが紛れもなく私の知っているSQUEEZEの「LOST FOR WORDS」でした!
どうやら今回の買い物は「アタリ」だったようです。リスクを取ってオーダーしてよかったです。コレクター冥利に尽きる瞬間です。これが私とポーランド製ポストカードレコードとの出会いです。

このポストカードレコードについて情報をお持ちの方は、ぜひご連絡をお願いします。私が持っているもの以外に見たことが一度もありません。





◆ ポストカードレコードについて

このポストカードレコードは冒頭でも書きましたように、多くのコレクターがその存在を求めて集めています。
そのミュージシャンのファンはもちろん、ポストカードコレクターにも人気があり、入手困難なものも多いようです。

ポストカードレコードはポーランドと旧ソ連で多く作成されています。
また、両国ともにライセンス品はほとんどないようです。
そのため、よく海賊盤と言われることもありますが、正確には一般的に流通している商業主義の海賊盤とは少し性質が違います。
それぞれの国家によってほとんど暗黙の了解で認可され、ひとつの文化として根付いていたからです。

そもそもソノシートをはじめとするこのような簡易ディスクのメリットのひとつとして「低コスト」で作れるということがあげられます。
当時の社会主義国家では言論や出版の自由は制限されており、西側のロックやポップスに触れるためには企業の作るレコードではなく、低コストのソノシートが一般的でした。
ポーランドにおいても1989年の民主化までは音楽を聴く手段はほどんどがソノシートでした。

ソノシートの形態にもいくつかあって、ごく普通の丸い形をしたソノシートや上記のようにハガキに音溝をつけたソノシートもよく出回っていました。

多くのコレクターがこのポストカードレコードに魅かれる理由としては2つあるように思います。
ひとつは、非ライセンス品のため正確なリリースカタログやプレス数といった情報がはっきりせず、「思わぬところで思わぬアイテムに出会ってしまう」可能性があること。
私もいくつかのタイトルのポストカードレコードを持っていますが、他にどんなタイトルに出会えるのか?とワクワクしています。

もうひとつは、入手後にハガキに描かれた絵やデザインと録音されている音楽との関連性のなさ。そのギャップではないでしょうか?
例えば、単なる公園の写真のハガキをターンテーブルにのせ、針を落とすと「COOL FOR CATS」が聴こえてくるなどと誰が想像できるでしょうか?手にすればするほど奇妙な感じです。


ポストカードを聴く!


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