Cradle To The Graveのジャケットデザイン
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Cradle To The Graveのジャケットデザイン


内容に関しては多くのファンが「過去最高傑作では」と評する完成度を誇るCradle To The Grave。しかし、ジャケのデザインに関しては評価がかなり分かれます。
私個人的な感想としては、初めて見たときには正直そのインパクトに少々驚いたものの、そこはスクイーズの過去の作品を何度も手掛けているお馴染み英国のデザイナーグループSTYLOROUGEのこと。じっくり眺めているとアルバムのテーマに沿って計算されつくしたデザインであり、ひとつひとつに多くの意味を込めていることが分かります。
そこで、私独自の解釈ではありますが、このジャケの謎をひとつずつ紐解いてみたいと思います。



【 左右対称にデザインされたジャケット 】

まず、一見ゴチャゴチャとしたデザインですが、よく見ると配置された多くの人物やモノが左右対称になっていることが分かります。
単にデザインとして対称になっているものもありますが、多くは左半分が「作られてゆくもの、生まれゆくもの」、右半分が「完成したもの、去り行くもの」となり、左から右へ時が流れていくようにデザインされています。
以下、具体的に挙げてみます。


上部「SQUEEZE」文字の横にいる鳥。左は群れをなすハト(後述しますが、ここでは生の象徴)、右は一羽のハゲタカ(死肉をあさる=死の象徴)


左右真ん中の白い丸の上に立つのは、左はコウノトリが運んできた赤ちゃん(生)、右はマサカリを持った死神(死)


白い丸の真下、左には 働き盛りの成人、右には完成した塔(仕事や人生をやり遂げたことの象徴?)
なお、この塔はライブCDのジャケやツアーパンフにも大きく使用されていることから、今回の作品の何か象徴的なものだと考えています(5つの★や窓は5人のメンバーを表している?)

ライブCD

ツアーパンフレット


下部左右の電車にはそれぞれCRDL(=CRADLE)、GRVE(=GRAVE)と書かれており、人生の流れを電車の走行に例えている


ジャケ全体に視点を戻して中央部分にあるビル群に目をやると、左は工事中の未完成なビル、右は完成したビルとなっている


下の蓄音機はジャケのテーマのような人生をサントラ仕立てにしてレコードを再生しているようです。かけられるのは言うまでもなくこのアルバムでしょう。


左上の口をあけたデザインと右上のLOVE RECORDSのロゴが対比しているのはご愛嬌といったところでしょうか。


本作のタイトルは2015年春頃のアナウンスでは「From The Cradle To The Grave」となっていましたが、最終的には「Cradle To The Grave」となっています。
このタイトル変更を受けて、アルバムのタイトルロゴのデザインもリリース前に一度変更されています。

変更前

変更後

これは完全に個人的な推測ですが、このタイトルの変更はジャケットデザインの都合上、急遽なされたものではないかと考えます。
変更前のタイトルだと、このジャケの左右対称、左から右へというテーマに沿いません。
デザインに統一性をもたせるためには、リリースバージョンのように配置するのが自然です。
そのためにあえて「From The」の文字を外した…のかもしれません。

ちなみに、このアルバムをサントラとした元のドラマのタイトルは「Cradle To Grave」です。
FromやTheがあるかないかなど、あまり気にしていないのでしょうか…(国民性?)



【 Mr. Cradle To The Grave? 】

さて、真ん中にドンとそびえ立つ男。ジャケのみならず作品全体の印象を決定付ける髭の男ですが、実はこの男こそがアルバムテーマを体言しているといっても過言ではありません。

まず、一見成人に見えますが下半身はオムツをはいています。このオムツは赤ちゃんの象徴でもあるし、介護が必要となった年寄りを表しているともいえます。
顔はいっぱしのジェントルマンですが、成人にしては体のバランスが不自然で足も短い。これは幼少期の体型です。
そして、胸に刻まれた「MOTHER」の文字のように全ての人間は母から産まれてくる。先にハトとハゲタカがそれぞれ生と死の象徴としましたが、ここには生の象徴であるハトが描かれています。
つまり、この人物ひとりでアルバムのテーマである「CRADLE TO THE GRAVE=ゆりかごから墓場」までを表しているのです。

「ゆりかごから墓場まで」という人生をコンセプトにした本作を語る際、ロック史上初のコンセプトアルバムと言われているビートルズのSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandを引き合いに出すとすれば、このジャケの男はペッパー軍曹ならぬ「Mr. Cradle To The Grave」とでもいえそうです。
髭を生やしているのはペッパー軍曹へのオマージュ…なのかもしれません(後述しますが、内ジャケでもビートルズを意識した箇所があります)。



【 ジャケの裏や見開きの写真にも意味が そして最後の曲で… 】

ジャケ裏には「ゆりかごから墓場まで」の片道切符があり、その両サイドには表ジャケと同じようにハトとハゲタカを対比させて人生に見立てています。


内ジャケでは、まるでアビーロードのようにメンバーが線路の上を左から右へと歩を進めています。渡り終えた所には「WAY OUT=出口」の表示が。深読みしすぎかもしれませんが、ここでも人生の一幕を表現しているように見受けられます。


アナログ盤のインナースリーブにはCDのブックレットにはないデザインが施されています。
このローラーコースターは「人生なんてあっという間」ということを示唆しているようです。


同じくアナログ盤にはCDに収録されていない4曲がボーナストラックとして収められています。
いずれもカバー曲で、アナログ盤の最後を飾る曲はクリスの歌うTOM WAITSのI DON'T WANNA GROW UP(邦題「大人になんかなるものか」)。
いつも飲んだくれてケンカばかりしている大人を揶揄したり、社会と接点を持つことにストレスを感じ、希望を見出せないのにいつの日かそうならざるを得ない葛藤を描いたトム・ウェイツらしい曲です。
これだけ人生をテーマに各曲でリアルな描写をしておきながら、ボーナストラックとはいえ最後の最後でクリスが歌い上げたことは大人への否定(笑)
これは、実にスクイーズらしいユーモアに思えますが、いかがでしょうか?




【 Cradle To The Grave広告ジャック 】

アルバムがリリースされて間もない2015/10/3、グレンが公式インスタグラムで「スタンドで今月号のMOJO誌を見かけたら、くるっと裏にひっくり返してくれたら助かるな」とアナウンスしました。
グレンの意図するところは、MOJO誌の裏表紙は一面アルバムの広告となっていたことから、その広告効果を狙ったものでした。
それを受けて英国在住の熱心なスクイーズファンの多くが実行し、その結果をSNS等で知らせていました。売り上げUPとしての成果はともかく(?)、そのインパクトの大きさから一定のアピール効果はあったものと思われます。
なお、同月号の表紙はビートルズ。英国ロックの大先輩を視界から消して、自分たちの広告に切り替えさせるとはグレンもいい度胸です(笑)。まあ、おそらくそこまで考えていないとは思いますが(笑)




最後にアルバムのジャケ、インナースリーブ、ブックレットのいずれにも掲載されていないデザインを3点ご紹介したいと思います。
これらはツアーパンフに掲載されていたもので、デザイン監修はアルバムジャケットと同じくSTYLOROUGEです。
特に一番左端のものは一部の構成がアルバムジャケットのデザインと似ていることから、もしかするとジャケのテイク違いだった可能性もあります。そんなことを想像したりしながら眺めていると、より興味深く思えます。






my collections of cradle to the grave

 


*追記(2023.12.21)
STYLOROUGEのFacebookに「日本のアーティスト、横尾忠則への敬意」と記されています。
なるほど、言われてみれば横尾作品へのオマージュを感じますね。
STYLOROUGE Facebook



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